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■ 肩関節痛の成因
肩関節痛は、肩関節や周囲の軟部組織の退行性変化、外傷、炎症、腫瘍、神経の圧迫や変性などに起因し、頚椎や胸郭出口、内臓病変など肩以外の疾患でも生じます。
■ 肩関節痛をきたす主な疾患の病態と症状の特徴
1. 軟部組織の退行性変化に基づく疾患
1)肩関節周囲炎
五十肩ともいい、腱板、肩峰下滑液包、上腕二頭筋長頭腱、腱板疎部炎、癒着性の肩峰下滑液包炎など明らかな原因がなく肩の疼痛と可動域制限を呈する症候群のこと。(詳しくは肩関節周囲炎の項を参照)
2)石灰沈着性腱板炎
急激に発症する肩の激しい疼痛が特徴で、中年女性に多い。関節拘縮は認めない。X線で腱板部に石灰沈着像を認める。
2. 外傷性疾患
1)腱板断裂
特に棘上筋腱の退行性変化に外傷などの機械的刺激が加わって生じる。肩の挙上時の疼痛や外転筋力の低下、棘上筋・棘下筋の萎縮を認める。外傷のエピゾードがなくても発症することもある。不全断裂1は腱板炎や肩峰下滑液包炎との鑑別が困難な場合が多い。超音波、関節造影、MRI検査により確定診断する。
2)脱臼
肩関節、肩鎖関節、胸鎖関節で生じる。罹患部の疼痛、不安定性、転位、肩の運動制限を呈する。肩関節は構造上脱臼しやすい関節である。
3)骨折
肩周辺部の骨折は鎖骨骨折、上腕骨近位端骨折がある。転倒などの外力により生じる。骨折部の疼痛、軸圧痛、異常可動性、腫脹を呈するが、所見が明確でない例もある。X線など画像検査で確定診断する。
3. 関節炎
1)化膿性関節炎
多くは糖尿病などの免疫機能の低下する基礎疾患、関節注射の際の感染による。発熱・倦怠感などの全身症状と、強い疼痛・熱感・腫脹などの局所症状を呈する。
2)関節リウマチ
20〜30歳代の女性に後発する慢性進行性多発性関節炎である。肩関節に初発することは少なく、肩関節炎が生じた時点では他の関節炎を生じ、すでに診断が下されている場合が多い。
4. 変形性関節症
他の関節に比べて頻度は低い。
5. 神経障害
1)肩甲上神経障害
肩甲骨の過度の運動を繰り返すスポーツの外傷で障害をきたしやすい。肩甲部の疼痛、棘上筋・棘下筋の萎縮と外旋筋力の低下を呈する。知覚障害はみられない。
2)神経痛性筋萎縮症
成人男子に多く、各種の感染症や薬物使用後やワクチン接種後にみられ、自己免疫的機序などが推察されている。予後は比較的良好で、多くの場合は6〜12週後にほぼ完全に緩解する。
■ 鍼灸治療
主な適応は肩関節周囲炎で、それ以外の疾患は、各々に応じた他の治療が優先されることが多いです。鍼灸は、それに併用することで症状緩和の補助的手段となる可能性があります。
1. 現代医学的な鍼灸治療
疼痛と筋緊張を軽減し、肩甲骨周囲筋や腱板の機能を改善して、肩甲骨や肩甲上腕関節の運動の正常化をはかります。関節拘縮がある場合は、可動域訓練を併用します。
2. 東洋医学的な鍼灸治療
「痹証」と捉え、行痹、痛痹、着痹、熱痹のいずれかに分類して治療します。
- 腱板の断裂には、完全断裂と不全断裂がある。腱板の肩峰下滑液包と肩関節腔が損傷部で交通している場合を完全断裂、交通していない場合を不全断裂という。 ↩︎