■ 眼精疲労とは
眼精疲労とは、視作業を続けることにより容易に目が疲れて、視力の低下や眼痛、頭痛、肩こりなどを訴え、時には悪心・嘔吐も生じるような状態と定義されています。
普通では疲労しない程度の作業でも目が疲れるものや、休息してもなかなか回復しないもの、また回復してもすぐに疲れが出るもので、さまざまな症状を伴うものをいいます。
■ 眼精疲労の成因
眼精疲労の発生機序は、①視器、②全身(肉体的因子、精神・心理的因子)、③環境の3つの要因に分けて考えられるようになってきています。
1. 視器の要因
1) 屈折異常
遠視や乱視および不適切な眼鏡による矯正が挙げられます。
2) 調節異常
老眼によるものが多く、老化による水晶体の弾力性の低下が原因となって、ピントを合わせる調節力が減退することによります。
3) 眼位異常
斜視や斜位により両眼の視線を合わせる努力が必要となることが原因となります。
4) 輻輳異常
輻輳麻痺や輻輳痙攣が原因となります。輻輳とは寄り目のことをいいます。
5) 眼疾患
結膜炎など前眼部に炎症症状がある場合や、開放隅角緑内障の初期などに眼精疲労が生じることがあり、注意が必要です。
2. 全身の要因
1) 身体的因子
各種疾患に罹患することにより全身状態が不良になった場合や、過労や睡眠不足などによる体調不良が原因となります。
2) 精神・心理的因子
うつ病、神経症や精神的ストレスなどが原因となります。
3. 環境の要因
無理な姿勢や長時間にわたる細かな作業、照明・騒音、室温、換気の状態などの環境要因が原因となります。パソコン作業やネットサーフィン、ゲームなども大きな原因となります。
■ 眼精疲労をきたす主な疾患の病態と症状の特徴
1) 目の疲れ
目の疲れは全ての眼精疲労にみられる症状です。休息することによって回復する単なる目の疲労(眼疲労)とは区別が必要です。
2) 充血
目の酷使やドライアイ、結膜炎などで生じます。
3) 眼脂
結膜炎などの結膜疾患が考えられます。
4) 目の圧迫感・目が重い
緑内障による高眼圧症、調節衰弱、、また近視における眼鏡の過矯正時などで診られることが多いです。
5) 目の奥が痛む
目の酷使により外眼筋に疲労が蓄積することで生じます。眼球を一定の位置に長時間固定することによります。
6) 羞明
まぶしい状態をいい、びまん性表層角膜炎、慢性結膜炎、慢性虹彩炎など前眼部疾患で生じます。
7) 目を開けているのがつらい・ひりつく
羞明がある場合やドライアイで生じます。
8) 目が乾く
ドライアイによって生じます。
9) ものがぼやけて見える・目がかすむ
遠視、乱視、近視の屈折異常で診られることが多く、調節異常が主体となります。
10) ものが二重に見える・焦点が合わない
調節異常に輻輳異常が加わった場合や、眼位異常がある場合にみられることが多いです。
■ 東洋医学からみた眼精疲労
東洋医学では、目と肝は直接関連づけられており、目は肝血の滋養が必要で、不足するとものがはっきり見ることができなくなります。したがって、目に異常がある場合の治療としては肝から手がけるのが良いとされています。
しかし、他の臓腑との関連も切り離すことはできず、特に腎の精気が不足すると目を栄養できず、視力低下などが生じるとされています。
1. 肝血虚証の眼精疲労
肝には血液の貯蔵と調節の作用があり、その機能が乱れて目に栄養が行き届かなくなることで眼精疲労が生じます。
2. 肝腎陰虚証の眼精疲労
長期にわたるストレスや慢性疾患、老化により、肝血だけでなく腎精も不足した状態となり眼精疲労が生じます。
■ 鍼灸治療
1. 治療対象
鍼灸治療の最適応は、調節機能の低下などの機能的な異常による眼精疲労です。
2. 現代医学的な鍼灸治療
眼の近傍部および後頸部に治療を行います。
3. 東洋医学的な鍼灸治療
1) 肝血虚証
肝を滋養し肝血の不足を補う治療をします。
2) 肝腎陰虚証
腎を丈夫にして腎精を増加させ、肝腎の陰を滋養して陰虚による陽亢を鎮静させます。