■ 顔面痛とは

 顔面痛とは、顔面部に起こる痛みを総称したもので、顔面部の知覚を支配する三叉神経による痛みだけではなく筋骨格系や頭蓋内の病変さらに自律神経系に起因することによっても顔面痛を呈します。

■ 顔面痛の成因

 顔面痛は、主として顔面部を支配する神経や血管の障害、あるいは脳腫瘍などで発症し、多くは三叉神経や舌咽神経、あるいは膝神経節の障害で生じます。(表1)

分類疾患
神経系に起因三叉神経痛、舌咽神経痛、帯状疱疹後神経痛、ラムゼイ・ハント症候群など
筋骨格系に起因顎関節症など
頭蓋内病変に起因トロサ・ハント症候群、脳腫瘍など
自律神経系に起因非定型顔面痛など
表1 顔面痛の成因による分類

■ 顔面痛をきたす主な疾患の病態と症状の特徴

1. 三叉神経痛
 三叉神経痛の詳細は三叉神経痛の項を参照。

2. 舌咽神経痛
 発症頻度は三叉神経痛の1/100程度となっています。舌根部、咽頭部に起こる発作性の刺痛で、嚥下や咀嚼によって症状が増悪します。

3. 帯状疱疹後神経痛
 帯状疱疹の痛みは、三叉神経第1枝領域(眼窩上部)に好発します。皮疹が確認されれば診断は容易になりますが、疱疹消退後にヘルペスウイルスによって破壊された神経領域に持続性の灼熱痛を訴えます。

4. ラムゼイ・ハント症候群
 顔面神経の膝神経節が帯状疱疹ウイルスで障害を受け、患側の耳介を中心に持続性疼痛を呈します。疱疹が耳介や外耳道に認められ末梢性顔面神経麻痺や聴神経障害を合併すれば鑑別は容易になります。

5. 顎関節症
 開口や咀嚼運動により側頭部や下顎部を中心に持続性鈍痛を訴えます。また、顎関節の運動に伴いクリック音と咬筋や側頭筋の緊張が確認できます。

6. 脳腫瘍
 脳腫瘍による場合、頭痛も重要な所見となります。頭蓋内圧の変化に伴い頭部顔面の痛み、圧迫、牽引感などを呈し、運動、咳などで増強します。進行するものでは嘔気、嘔吐、神経症状を伴い、鑑別診断にはCTやMRIなど画像診断を必要とします。

7. トロサ・ハント症候群
 良性のステロイド感受性肉芽腫が海綿静脈洞や上眼窩裂に生じて、同部を走行する第Ⅲ〜Ⅵ脳神経、内頸動脈周囲の交感神経線維を傷害し、片側の眼窩部痛と複視を主症状とします。痛みは持続性ですが、ステロイド投与によって改善します。

8. 非定型顔面痛
 20歳から40歳代の女性に多く、痛みの特徴は深在性で三叉神経領域とは関連せず広範囲に疼くような痛みが出現し、自律神経症状を伴い、知覚異常を呈さないなど特徴的になります。原因は不明ですが、自律神経系、特に交感神経の過緊張症状を訴える場合が多く、臨床心理検査では心気傾向、ヒステリー、抑うつ傾向を示し、消炎鎮痛剤は無効で、抗うつ剤が有効なケースが多いようです。

■ 顔面痛の鍼灸治療

1. 治療対象
 鍼灸治療の対象は、突発性三叉神経痛、舌咽神経痛、非定型顔面痛、ラムゼイ・ハント症候群による膝神経痛などになります。痛みの強い場合や精神的要素が深く関わっているような場合は、薬物療法(鎮痛薬や抗うつ薬など)との併用が適切です。

2. 現代医学的な鍼灸治療
 基本的には圧痛点を治療点とし、刺鍼を行います。

3. 東洋医学的な鍼灸治療
 ①外気(風、熱、寒)の影響、②精神の抑うつ・ストレス、③気の不足、などの弁証に基づいて治療を行います。