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  2. うつ病(うつ状態)

■ うつ病とは

 うつ病とは、気分の沈滞や気力の減退などの精神症状に加え、食欲低下、不眠、疲労感などの身体症状を伴う心の病とされています。
 近年のストレス社会では、うつ病を有する人は年々増加の傾向を示しているものの、入院を必要とする重症例は減少し、軽症化、身体化、神経症化、慢性化、若年化といった特徴があります。

■ うつ病の成因

 うつ病(うつ状態)の成因は、「内因性」、「心因性」、「身体因性」の3つに分類されます。
 「内因性うつ病」は、何らかのうつ病になりやすい素因や性格があり、そこに精神的ストレスや過労などの身体的ストレスが加わって発症するとされています。「心因性うつ病」は、肉親の突然死、挫折、苦悩、人間関係のトラブル、病気による悩みや不安などの心理社会的要因により発症するとされています。「身体因性うつ病」は、脳血管障害など身体の病気や薬の副作用などの身体的要因により発症するとされています。
 実際のうつ病は、1つの要因によるものではなく、あくまで相対的にどれが強いかであり、その割合は個々の患者で異なるようです。

■ うつ病の症状

 うつ病では、精神症状と身体症状の多彩な症状が現れます。精神症状では、気分の障害、意欲の障害、思考の障害を中心に症状がみられます。身体症状では、睡眠障害、疲労倦怠感、頸や肩こり、頭痛、食欲不振などの症状がみられます。また、朝方は症状が強く、夕方には軽減するという日内変動を示します。

1. 気分の障害

①抑うつ気分
 「気分が沈む」、「憂うつ」、「もの悲しい」、「何もないのに泣ける」などの表現で訴え、すべてが憂うつで悲哀に満ちたものになる。

②喜びや興味の消失
 「むなしい」、「皆が楽しいのに自分は笑えない」などの表現で訴え、感情が乏しく、物事は空虚なものになる。

③不安・焦燥感
 不安や焦燥感が非常に強く、些細なことが気になり、じっとしていられず、身の置き場がなくなる。

④希死念慮
 「もう生きていても仕方がない」、「生きていては家族や周りの人に迷惑をかける」などの表現で訴え、すべてが絶望感に満ちあふれている。

2. 意欲の障害

①精神運動抑制
 「やる気が出ない」、「やらなければいけないのにできない」などの表現で訴え、気持ちがあっても身体がついていかない状態である。活動性は低下し、何事も無気力で、能率が低下し、時間ばかりかかる。人と会うこと、話をすること、食事をすることさえ億劫でできないときもある。

3. 思考の障害

①思考過程の障害
 「考えが進まない」、「どうしていいかわからない」、「決められない」などの表現で訴え、考えの発想・展開が遅々として進まず、同じことを繰り返し考え、不安でいっぱいになり、物事が進まず、決定困難な状態となる。

②思考内容の障害
 すべてがマイナス思考になり、悲観的、自責的、自己を過小評価する。些細な身体の不調を重い病気と考える「心気妄想」、過剰に自責的になり、深刻に物事を判断して責任を取ろうとする「罪業妄想」、現実的には金銭的に問題がないのにも関わらず、必要以上にお金について心配する「貧困妄想」などの微小妄想がうつ状態の三大妄想といわれる。

4. 通常の憂うつ気分と抑うつ状態の違い

 人は誰でも憂うつな気分やひどく落ち込むことがあります。通常の憂うつ気分も、治療を必要とするうつ状態も、気分が落ち込んだ状態に陥ることは同じですが、うつ病の方が通常の憂うつより強い落ち込みに見舞われます。(表1)

うつ病通常の憂うつ
うつ状態の強さひどく塞ぎ込み、時には妄想的でさえある程度は弱く、現実からかけ離れるほどでない
うつ状態の持続期間2週間以上、うつ状態が続いている憂うつな日もあれば、そうでない日もある
うつ状態の変化喜ばしいことがあっても、気分は良くならない喜ばしいことがあると、気分がいくらか良くなる
日常生活の変化それまでのような生活を送ることができないそれほど変化はない
趣味などに関する関心関心が失せ、取り組んでも集中できず、かえって疲れる取り組んでいる時の方が気が紛れる
対人関係人と会うのをいやがる人と会っている時の方が気が紛れる
1日内の気分の変化朝は気分が悪く、夕方になると良くなるケースが多いそれほど変化はない
自殺企図自殺願望をもつことが多く、実際に命を絶つ人が少なくない実際に自殺をする人は少ない
表1 通常の憂うつとうつ状態との比較

5. 身体症状

 うつ状態に特徴的な身体症状はなく、不眠、食欲不振、性欲減退、易疲労感など多彩な症状を示します。

■ うつ病のなりやすい性格、誘因

1. うつ病になりやすい性格

 具体的には、「まじめで仕事熱心」「他人に仕事を任せられない」「完璧主義・理想主義」「他人に頼まれると断れず、他人のことを優先させる」「自分の感情を表現せず我慢してしまう」性格です。しかし、近年の軽症うつ状態患者は、「プライドが高く、几帳面にみえるが、困難な状況には問題を放棄する」逃避型性格や「自分より下と思う相手にはリーダーシップを取るが、同等以上の人には回避する」回避型性格の性格傾向を特徴としています。

2. うつ病の誘因

 うつ病には、誘因がある場合とない場合があり、誘因となる出来事は、男性と女性では異なり、男性では仕事や人間関係に関連したこと、女性では家庭や性機能に関連したことが多いようです。なお、近親者の病気や死亡、一般的な精神的打撃、身体疾患などは両者に共通する誘因となります。

3. 身体疾患とうつ病

 病気による精神的ストレスがうつ病の誘因となりますが、そのストレスは2種類に分類されます。1つめは、「がんの告知を受ける」「事故で脊椎を損傷した」「心筋梗塞を起こした」時などの突然の激しいショックを受けた場合です。2つめは「人工透析」「慢性疼痛」など慢性疾患で治療を継続している患者の慢性的ストレスです。

■ 鍼灸治療

1. 治療対象

 鍼灸治療単独で適応となるのは、通常の憂うつや日常生活に支障のない軽症のうつ状態です。本人や周囲の人が見て日常生活に支障のある場合には、専門医による治療と鍼灸治療を併用することが望ましいです。

2. 現代医学的な鍼灸治療

 現代医学的な観点から身体的愁訴および精神的愁訴の改善に至るトータルな治療を組み立てることは難しく、心身両面にアプローチする場合は、東洋医学的な鍼灸治療が良いでしょう。

3. 東洋医学的な鍼灸治療

 東洋医学的な診察から、①精神的なストレス・過度な緊張状態、②気の滞り、③水液の滞り、④気や血の不足などの状態を推察し、その改善を図ります。